これは絶対に見ておくべき映画なのだ

いろいろな知人から、この映画は見ておくべきですよ、と忠告されていたのに、僕は一体何をやっていたのかと反省している。ウクライナ出身の映画監督セルゲイ・ロズニッツア監督の『ミスター・ランズベルギス』(2021年作品)だ。248分という長編だが、あっという間だった。リトアニアというバルト三国のなかの小国が、血と矜持と自由への意志によって、ソ連からの独立を果たしていった壮烈な時間の記録を、傑出した、そして人間的な魅力に溢れた文人リーダー、ランズベルギス元最高会議議長へのインタビューを巧みに使いながら、当時の貴重な記録映像によって再構成されたドキュメンタリー映画だ。1991年1月13日、リトアニア独立運動を抹殺しようとしたソ連軍の軍事介入によって、市民らが犠牲になった「血の日曜日事件」。僕は自分の短い報道記者人生のなかで、決して忘れることができない強烈な思い出のひとつとして心に刻まれている出来事だ。その事件直後に僕は現地リトアニアに取材記者として入った。何から何まで生々しい記憶として残っている。日本テレビの取材班が事件のさなかに現場に居合わせていたことを、この映画のパンフレットによって僕は知った。
また、ランズベルギス氏が映画の中で語っている、1991年8月19日のソ連保守派クーデターで、なぜゴルバチョフ氏が殺害されなかったのかという最大の謎をめぐる見解は実に驚きだ。彼の考えでは、保守派とゴルバチョフ氏の間に、一種の暗黙の「合意」のようなものがあったとみているのだ。そうでなければ、CIS創設の新条約締結(保守派からみれば、これが結ばれればソ連は即消滅)前日に、のんびり静養のためヤルタに滞在していたなどということはあり得ない、と見ている。なるほどなあ。このあたりは、ゴルビー・ファンの多い日本では、何とも受け入れがいたいと思う人も多いかもしれない。だがおそろしいばかりの説得力を有する推論ではないか。
まだ見ておられない皆さんに、そして現下のウクライナ戦争や、ロシアという国家の成り立ちに少しでも関心のある方は、この映画をご覧になられたら良いと思う。掛け値なしに申し上げたい。

ミスター・ランズベルギス(2021年作品)

«